自己愛性人格障害(410) 被害者の仮面を被った加害者 3
前回お伝えした通り、同じ著者による2冊の本を紹介したい。いずれも被害者の仮面を被った加害者が猛威を奮い、無辜の人がある日突然加害者にされてしまうノンフィクションである。最初は「でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相」からである。まず初めに事件の概要を書く。
ノンフィクションの主人公は小学校教師である。地方の一介の小学校教師が、後に全国のマスコミから猛烈にバッシングされることになる。最初は福岡ローカルな話題でしかなかった。ところが週刊文春が「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『殺人教師』」という見出しとともに実名を公開してから、この問題が一気に全国区になってしまった。連日ワイドショーでも採り上げられ、報道が過熱していくことになる。では、この教師は一体何をしたのか。
被害者はアメリカ人を曾祖父に持つ生徒である。家庭訪問の際に母親からそのことを聞いた教師は「穢れた血が混ざっている」と差別的な言葉を口にした。それを生徒が耳にして非常にショックを受けたという。学校においても、この教師は「穢れた血」の生徒に暴言や体罰など心身に渡る虐待をするようになった。生徒は鼻血や耳にケガをした他、口の中が切れたり歯が折れたり、打撲傷を負うなど、連日傷だらけで帰宅するようになる。
さすがに看過できぬと、この生徒の両親は校長と教頭に担任の交代を強く求めた。事態を重く見た学校側は、この教師の授業中に監視をつける措置をとった。ところが、教師は監視の目を盗んでやはり生徒の頭を殴るなど暴力行為をしていたことが明らかとなり、遂に担任を外されてしまう。さらに信じられないことに、この生徒に自殺強要まで行なっていたことが判明する。「血が穢れている人間は生きている価値がない。早く死ね。自分で死ね」と。
福岡市教育委員会は調査の結果、教師による生徒へのいじめと虐待を認定し、教師は懲戒処分となった。ターゲットなった生徒はPTSDと診断され、その後も嘔吐や腹痛が収まらず、小学校を欠席せざるをえなくなった。その結果、生徒の両親は当該教師と福岡市を相手取って民事訴訟を起こすに至ったのである。本来生徒を守るべき先生が生徒をいじめや虐待をするという前代未聞の事件に、全国のマスコミはもちろん、義憤にかられ集まった弁護団は総勢550人。こうしてマスコミ注視の中、裁判が始まったのである。
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結論から先に言うと、これら教師によるいじめ、虐待、すべて被害者側の狂言であった。それがこの本のタイトル「でっち上げ」の由来である。この教師はモンスターペアレンツにまんまと嵌められたのである。
この本の記述から「それらしき臭い」を感じる部分は多々ある。おそらくこの母親は虚栄心が強く、自分を盛る癖があるようだ。曾祖父がアメリカ人で、自分も小さい頃アメリカに住んでいた、最初はうまく日本語が話せず困った等々、アメリカ人の血を引く帰国子女であることをアピール。そして教師が家庭訪問に訪れた際は生徒の話よりアメリカ時代の自慢話を延々と「いい加減にしてくれ。まだしゃべる気なのか」と教師が内心うんざりするくらい自分の話をしゃべりまくった。後にこれらは全て嘘だったと判明している。身内にアメリカ人がいないのはもちろん渡米経験もない。ショーンKである。
生徒の母親は学校に乗り込み、ウチの子供があの先生にああいうことを言われた、こういう事された、こういう虐待をされたと校長に詰め寄る。それを聞いて当事者の先生はびっくりする。「自分がそんな酷いことを言ったというのか!」「一体どうやったら、こんなホラ話をでっち上げることができるんだ!」「子供が嘘をついているのか?それとも親なのか?」「これは誰か別の人のことを言っているのではないか」・・・自分が言ってもないことを、生徒の母親は言ったという。やってもないことをやったという。しかしここで否定してはさらに感情的に激昂する勢いである。
小学校教師には、生徒の父兄と問題が生じたとき、それが理不尽な要求であっても、頭から拒否したり争う事態は極力避けなければいけないという不文律があるという。とにかく教師が謝れば事態は収まるのであればと、不本意ながら謝罪してしまう。これが後に「教師自身も認めている」という証拠とされてしまう。このように事態は悪い方にどんどん転がってしまう。
教師が生徒をイジメるという話題性もあり、この「事件」をマスコミが嗅ぎ付け、瞬く間に全国区のニュースになる。一度は認めて謝罪した教師がいくら「やってない」「そんなことは言ってない」と否定しても誰も信じてくれない。言ってもいない、やってもいないことを、まるで事実のように決めつけられて次々に記事が出来上がっていく。
ターゲットとなった教師本人は早い段階で母親の怪しさに気付いている。なぜなら時間を追うごとに被害を語る母親の作り話がエスカレートして大きくなっていくからだ。「狂気の沙汰だ。あの母親ならこれくらい言いかねない」。しかし、裁判が進むにつれ、マスコミの間でも、あの被害者生徒の親は何か変だぞと事件への疑問が囁かれ始め、裁判を通して次々に異常性が露呈し始めた。
この生徒の親は特異な言動で常日頃から周囲で浮いていた。実は、この母親は長男の時も同じように校長室に乗り込んで抗議をした過去がある、有名なクレーマーだったのである。とある生徒が事件の渦中でこの教師を擁護したところ、その子の親にも猛烈なクレームも入れている。
これだけ大騒ぎになった事件でありながら、教師が暴言や暴力など虐待を目撃した生徒が一切いない。他の生徒たちはマスコミの報道を「嘘ばかりだな」という目で見ていたそうである。それに反し、この教師の評判がすこぶる良く、誰もが慕う人柄であったこと。さらに、この被害者とされる生徒自身が、友人に暴力を振るったり、教室内で傍若無人に振る舞ったりと手が付けられない状態で、他の父兄からクレームがくるほどの素行に問題がある生徒であった。
事件の全貌としては、その先生を陥れたい母親が、些細なことを全て虐待につなげで被害をでっち上げた、という冤罪事件であった。本当の被害者はターゲットとなった教師である。加害者は生徒の母親である。しかし母親は「嘘」という加害事実を隠し、被害者の仮面を被って教師を訴えた。そして母親が語る嘘の作り話に、校長、教育委員会、弁護士、マスコミ、周囲の人間がすっかり信じ込んでしまい、騙されてしまったというものである。
「子供は善、教師は悪という単純な二元論的思考に凝り固まった人権派弁護士、保護者の無理難題を拒否できない学校現場や教育委員会、軽い体罰でもすぐに騒いで教師を悪者にするマスコミ、弁護士の話を鵜呑みにして、かわいそうな被害者を救うヒロイズムに酔った精神科医。そして、クレーマーと化した保護者。彼らが寄ってたかって教師を『史上最悪の殺人教師』にでっちあげたというのが真相であろう」
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